ロードバイクに乗りたての頃は、パワーメーターなぞ遠い存在だと思っていた。何たって高いもん。が、自分が出している動力を計測できるなんてなんて素晴らしいんだろうと思っていた。
2012年頃の円高時、Chain Reaction Cyclesという英国通販業者の大幅値引きで320ポンドまで値下がりしたPowerTap、買ってしまった。
結論から言えば、速く走るためのトレーニングをする人にとっては、あるとないとでは大違いのもの。一方で、ダイエットや健康増進、もしくはロングライドのためにサイクリングをする人にとっては無用の長物。
パワーメーターを語り始めると5回分くらい(大げさか)の記事が書けるのだが、まず、パワーメーターとは何ぞや、何のためのものか、について。知ってる人は笑い飛ばして頂きたい。
1. トレーニングで何を計測する必要があるか~人間側の情報と自転車側の情報
レースを想定するなど速く走ることを目的としたトレーニングの場合、トレーニングの効果というのは、自分がどれだけ頑張ったかという人間側の情報ではなく、頑張りの結果がどうかという自転車側の情報を計測することが必要。即ち、同じ頑張りでいかにパフォーマンスを上げるか、もしくは、頑張り度合を上げることでいかにパフォーマンスを上げるか、を正しく把握することが必要であり、その際に自転車側の情報が計測できないと、頑張り度合を上げたのにパフォーマンスが上がらないという無駄なトレーニングの発生を排除できないし、パフォーマンスを上げるという観点でのトレーニングの成果が測れない。
2. サイコンで計測できる情報
これを前提とした場合、なぜサイコンでは不十分か。
いわゆるサイコンで計測できるのは、速度、ケイデンス、心拍数(まあ、距離とか時間とかもあるけど、ここでは関係ないのでおいておく)。
説明の都合上、心拍数から説明すると、心拍数は人間側の情報としては極めて重要。要は、いまこれだけ頑張ってますという運動強度を表現するもの。以前の記事にも書いたが、心拍数(ゾーン)によって、エネルギー生成方法が変わってくる。
速度は、自転車側の情報ではあるものの、風速(空気抵抗)や勾配(重力)等の外部環境により大きく影響を受ける。したがって、あるコースにおける平均速度が、半年前に35km/hであったのが今日は36km/hだったとして、人間側の情報である心拍数が同じだったとしても、平均速度の上昇がトレーニングの効果によるものか、風による影響を受けたものか、判別できない。ましてコースが違えば、速度によるパフォーマンスの測定はさらに難しくなることは言うまでもなく、他人(他のコース)との間で、オレの平均速度は●●km/hなどという比較をしても全く意味がない。
ケイデンスに至っては、単に適切なケイデンス数を保ってペダリングをしているかをモニターするだけのものなので、パフォーマンスの測定にはなんら寄与しない。余談だが、乗り慣れてくれば、ケイデンスが80なのか90なのか100なのかというのは体が覚えてくるので、表示すらさせないことが多い。
3. パワーメーターで計測できる情報
一方、パワーメーター。これは自転車側の情報、つまり人間の運動によって自転車に与えられている動力(動力(W)=力×速度)を示すもの。これは外部環境にかかわらず、人間の頑張りの効果を適切に反映する。向かい風が強くて速度がたとえ低下したとしても空気抵抗に抗うために強い力で漕いでいるのであれば、それは人間の頑張りの結果として評価されるべきものであり、これを計測するのがパワーメーター。したがって、同じ心拍数でトレーニングを続け、平均動力が250Wから半年後に280Wに上昇したならば、明らかにトレーニングの効果があったと言える。
このように、人間の頑張りの効果を適切に計測するのがパワーメーターであるので、走りのパフォーマンスを追求する人にとっては、自分の平均動力(具体的には30分間持続動力とか、1分間持続動力といった計数)をいかに上げるかということを念頭にトレーニングすることが必要。
4. おまけ~パワーメーターの種類による違い
「パワーメーターは人間の頑張りの効果を適切に計測する」と言ったが、これは動力をどこで計測するかによって変わる。
PowerTapはリアハブで計測するため、チェーンの伝導損失が反映された後の動力が計測される。即ち、人間の頑張りの効果としては同じ動力で漕いでいても、半年前に錆び錆びのチェーンを使っていたが今は新品のDuraのチェーンを使っていたとすると、リアハブで計測する動力は、今の方が半年前よりも大きめに出るだろう。
一方、ペダルで動力を計測するタイプのパワーメーターの場合、ほぼ純粋に、人間の頑張りの効果を測定できるが、逆に、ペダリングスキルの向上をパワーメーターでのトレーニングの対象とすることができない。つまり、ペダル踏面の時点で200Wであれば、めちゃめちゃなペダリングをしていても、完璧なペダリングをしていても、同じ200Wとして計測される。これが、クランク軸やリアハブで計測するパワーメーターであれば、ペダリングの効率を反映した後の時点で動力を計測するため、めちゃめちゃなペダリング(=途中で動力の損失・減耗がある)による動力は、完璧なペダリングによる動力よりも小さい値で計測されよう。
また、エアロポジションをとることによる空気抵抗の減少や、タイヤ空気圧を適正にすることによる摩擦抵抗の減少は、いずれのパワーメーターにおいても動力計測時点より後の問題となるので、その効果をパワーメーターで計測することはできない。逆に言えば、同じ動力でも、エアロポジションをとったりタイヤ空気圧を適正にすれば、速度を上げることができる(上記で、速度は外部環境の影響を受ける、と言ったことの裏返し)。
5. ダイエットが目的の人たちへ
なお、「レースを想定するなど速く走ることを目的としたトレーニング」ではなく、ダイエットを目的としたトレーニングであれば、自分がいかに頑張っているかである人間側の情報、つまり心拍数が計測できれば十分。あとは自分のLTHRが分かれば、脂肪を主に燃焼する有酸素運動を行うにはzone3程度の運動強度で行うべき、という判別がつくので、心拍数のみをベースにトレーニングをすればよい。自分がいかに無駄なペダリングをしようが、わざわざ空気抵抗を大きくするような走り方をして自転車の速度が全く上がらなかろうが、自分が頑張ってエネルギーを消費しさえすれば良いのだから。
6. まとめ (人間の頑張りは上から下に向かって自転車のパフォーマンスに繋がる)
人間の運動(頑張り) = 心拍計で計測
人間の運動効率 = トレーニングで向上を図るポイント
ペダル踏面における動力 = パワーメーターで計測
ペダリングスキル = 効率が悪ければ動力に損失発生
クランク軸における動力 = パワーメーターで計測
チェーン等の伝導損失 = まあごくわずか
リアハブにおける動力 = パワーメーターで計測
路面との摩擦 = 動力測定後の要素(同じ動力でもこれによって速度が変わる)
空気抵抗 = 動力測定後の要素(同じ動力でもこれによって速度が変わる)
重力(勾配)= 動力測定後の要素(同じ動力でもこれによって速度が変わる)
速度 = 速度計で計測
以上。